睡眠時無呼吸症候群の原因
睡眠時無呼吸症候群は、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)と中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSAS)に分けられます。閉塞性睡眠時無呼吸症候群は、気道が狭くなって生じ、中枢性睡眠時無呼吸症候群は、脳からの呼吸指令がないことで生じます。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)
緩んだ筋肉や脂肪など上気道周辺の組織によって物理的に上気道が狭く、塞がれることで無呼吸や低呼吸を起こします。睡眠時無呼吸症候群の約80%はこのタイプとされています。肥満によって首や喉周辺に沈着した脂肪や浮腫によって生じることが多く、他にも肥大した扁桃や舌の付け根である舌根、口蓋垂、口内上後方のやわらかい軟口蓋などの上気道周辺の組織によって生じることもあります。身体を起こしているときには問題になりませんが、仰向けになり睡眠状態に入ると全身が脱力し重力でこうした組織が気道に落ち込んでしまい、気道の狭窄や閉塞を起こしています。アジア人において特に日本人は、下顎が小さく、さらに後退していることもあり、気道の狭窄や閉塞が起こりやすい傾向があります。歯並びや舌の位置なども影響することもあります。
睡眠時無呼吸症候群の代表的な症状に、いびきがあります。狭い気道を空気が通る際に生じる音です。多くの場合口呼吸であることが多く、そのため仰向けに寝るといびきをかき、横向きになると止まる場合があります。これは、仰向けになると組織が気道の方へ落ち込むことでいびきを生じています。口呼吸のために開口することで気道が狭小化することも一因と考えられます。
また、就寝時にはリラックスして全身の筋肉が弛緩しています。喉周辺の組織を支えている筋肉も弛緩してしまうため、生理的にも気道の狭窄や閉塞が起こりやすい状態になります。
中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSAS)
上気道の狭窄や閉塞はなく、脳からの呼吸指令が出なくなることで無呼吸を起こしている状態です。閉塞性タイプでは無呼吸によって低酸素状態になると脳が呼吸指令を出して呼吸を再開させようとしますが、中枢性タイプでは低酸素状態になっても脳からの呼吸指令が出ないため、呼吸しようという動作を見せることはありません。
中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSAS)は心不全との関連性があると知られており、循環遅延により血流の停滞によるものと、慢性化した心不全によって呼吸を調節する信号伝達に支障が生じて睡眠時の無呼吸を起こし、さらに無呼吸が心不全を悪化させるという指摘がされています。
睡眠時無呼吸症候群の予防
睡眠時無呼吸症候群は、糖尿病や高血圧、心不全などがある方の発症が多く、食事や運動などの生活習慣の改善による予防効果が期待できます。特に肥満によって気道の狭窄や閉塞を起こしやすい状態にさらされていることが多く、その場合は減量が根本的な原因を解消する根治治療になることもあります。
標準体重を維持する
肥満によって首や喉周辺の脂肪や組織が肥大することや夜間の浮腫などが、無呼吸の症状を起こす原因になります。肥満がある場合は、程度によりけりで目標体重まで減量し、それを維持することが重要です。ただし、顎が小さく、後退している骨格の要因に依存するケースでは肥満でなくても気道の狭窄や閉塞を起こすことがありますので、肥満でないから無呼吸にならないとは、一概に言えません。
なお、標準体重は下記のように計算できます。
標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)× 22
飲酒の方法を検討する
飲酒をした際だけ、いびきをかくというケースもあります。アルコールは筋肉を弛緩させる作用があり、それによっていびきが出やすくなります。就寝時にひどいいびきやあえぐような呼吸がある場合は、夕方以降の飲酒を控える必要があります。
口呼吸の改善
呼吸器である上気道は鼻、鼻腔、鼻咽腔、咽頭、喉頭であり、口は消化器の末端です。口でも呼吸はできますが、健康への様々な悪影響を及ぼすため、鼻からの呼吸を行う方が適しています。睡眠時無呼吸症候群でも多くの患者さんは口呼吸であります。口呼吸だけで咽頭がより狭くなり、狭窄や閉塞しやすくなるとされています。
口呼吸では、気道や肺が乾いてアレルギーや感染症リスクを上昇させ、歯周病や虫歯を進行させやすくなることが明らかになっています。口呼吸を改善することは、いびきや睡眠時無呼吸症候群の予防と健康につながります。
睡眠薬の服用
多くの睡眠薬は、上気道の緊張を緩める作用や低酸素時の呼吸回復を遅らせてしまう作用など、睡眠時無呼吸症候群を悪化させるリスクがあります。処方が必要な場合には、睡眠時無呼吸症候群の治療を受けた上で専門医師としっかり相談してください。
睡眠時の姿勢(体位依存)
重力によって気道に周辺組織が落ち込んで症状を起こしますので、横向きに寝ると上気道の狭窄や閉塞を軽減できるケースがあります。必ずしもすべての患者さんであてはまるわけではありませんが、睡眠検査の結果、体位変換により無呼吸が軽減できる症例もあります。枕の高さや抱き枕などで調整し、横向きで楽に眠れる姿勢を工夫してみることも大切です。
睡眠時無呼吸症候群によって生じた深刻な事故
睡眠時無呼吸症候群では、睡眠時間が十分でも無呼吸を繰り返すことで睡眠の質が大幅に低下し、慢性的なひどい睡眠不足になります。それによって日中、抵抗できないほど強い眠気に突然襲われることがあります。こうした急激に「落ちる」ような強い眠気によって、多くの犠牲が出た列車事故やバス事故が起こり、その報道によって睡眠時無呼吸症候群という疾患について知ったという方も少なくないと思います。
交通事故後に運転手を調べると、睡眠時無呼吸症候群の疑いがあるケースが多く、現在では重度の眠気を引き起こす睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害がある場合、運転免許の取り消しや停止の対象になります。さらに、睡眠時無呼吸症候群の症状があり、眠気があって運転を続けた上で起こした事故については刑事責任を問われることもあります。7人の死者と39人の重軽傷者を出した2012年の関越自動車道でのツアーバス事故では、運転手に睡眠時無呼吸症候群の症状が確認され、自動車運転過失致死傷罪で実刑判決が出ています。こちらの報道に取り上げられたことで、この病気が幅広く知られるきっかけとなったことでも有名です。
睡眠時無呼吸症候群はご自身の健康にも大きな悪影響を与えますが、事故を起こし多くの人に影響を与えることもあります。疑わしい場合はできるだけ早く受診して検査を受け、診断されたら適切な治療を受けてください。