狭心症

狭心症とは

心臓は1日10万回もの拍動を繰り返すため、心臓を動かす筋肉である心筋では大量の酸素や栄養を必要とします。心筋には冠動脈という専用の栄養血管があります。冠動脈が狭窄して心筋への血流が阻害され、酸素不足を起こす病態が狭心症です。

狭心症の原因

狭心症の原因として、動脈硬化の進展が重要です。動脈硬化は、高血圧などに影響しますが、経年的に病気が進行した結果血管の硬化と柔軟性を失ってしまう状態です。また、動脈硬化の進展により血管の内腔が狭小化をすることで血流が阻害され、酸素不足の状態、すなわち狭心症になると考えられています。

狭心症の種類

労作性狭心症

日常生活で負担のかかる動作や運動を行った際に、締め付けられるような胸痛や胸の苦しさを生じ、安静にしていると症状が自然に消失する場合、労作性狭心症が疑われます。胸部の圧迫感や締め付けられるような痛みを起こしますが、胸だけでなく、みぞおちや肩、首、腕、奥歯などが痛むこともあります。こうした症状は放散痛と呼びほとんどが数分間で解消します。
階段や坂道を上がる、重い物を持ち上げるなどの労作時には多くの血液を全身に送る必要があり、心筋の働きが激しくなります。冠動脈に狭窄病変があると心筋への血液供給量が不足して心筋が虚血状態になり、狭心症発作を起こします。
症状が起こった際には、安静を保てるよう座ってください。狭心症で治療を受けていて、ニトログリセリンの舌下錠を処方されている場合には、発作が起きたらすぐ口に含むことでニトログリセリンが冠動脈を拡張し、短時間に症状を消失できます。ニトログリセリン使用時、顕著に症状が改善する場合、狭心症を更に強く疑いますのでなるべく早い循環器専門医への受診をご検討ください。
ニトログリセリンは血圧を下げて低血圧を起こす場合がありますので、口に含む前に椅子に腰掛けるなど倒れてもケガをしないよう気を付ける必要があります。

冠攣縮性狭心症

夜中や明け方などの就寝時をはじめ、安静時に締め付けられるような胸痛などの症状を起こします。痛みの内容や生じる場所、持続時間などは労作性狭心症と共通しています。攣縮は血管が機能的に縮まることであり、冠動脈が一時的なけいれんを起こして収縮することで血流が途絶え、様々な症状を生じます。発作時にはニトログリセリン舌下錠も一定の効果を得られ、カルシウム拮抗薬による予防効果も期待できます。また、夜間の症状であり睡眠時無呼吸症候群の症状との鑑別が困難であることもありますのでお気軽にお問い合わせください。

不安定狭心症

労作時狭心症の発作がこれまでよりも軽い労作で起こるようになったなど、進行して心筋梗塞に移行するリスクの高い状態になっている状態です。不安定狭心症と急性心筋梗塞は急性冠症候群という緊急性の高い疾患群に含まれており、不安定狭心症の場合も急性心筋梗塞と同様の対応が必要です。
早急に適切な処置を受けないと命にかかわります。また、そうした場合、今まで有効であったニトログリセリン舌下錠の効果が得にくいことがあります。速やかに当院までご相談ください。

微小血管狭心症

非典型な胸痛などの症状があり、冠動脈の狭窄や冠攣縮の誘発試験でも攣縮がない場合は、微小血管狭心症が疑われます。X線血管造影検査でも移せないほど細い血管に狭窄が生じていると考えられていますが、確実に診断できる検査法はありません。労作とは無関係に狭心症発作を起こすことが多く、持続時間は比較的長く、ニトログリセリン舌下錠の効果を得にくい傾向があり、カルシウム拮抗薬は有効なケースがあると報告されています。
エストロゲンという女性ホルモンの分泌が減少する更年期以降の女性の発症が多くなっています。エストロゲンの減少によって一酸化窒素の産生低下が起こり、血管平滑筋の弛緩作用や血小板凝集抑制作用などが十分に発揮されなくなることで生じているとも考えられており、世界中で議論になっている疾患概念です。

狭心症の症状

狭心症の症状は、狭心症の種類により異なりますが、代表的な症状としては下記のようなものが挙げられます。

  • 胸の痛み(胸痛)
  • 胸が締め付けられる感じがする
  • 呼吸が苦しい(息苦しい)
  • 冷や汗が出る
  • 吐き気がする
  • 胃が痛い(胃痛)
  • 顎や左肩への放散する痛み(放散痛)

など

狭心症の検査

狭心症が疑われる場合、問診や心電図、ホルター心電図、超音波検査、運動負荷試験、血液検査を行います。また、必要に応じて冠動脈の造影検査やCT検査、心筋シンチグラム検査(心臓核医学検査)など、より高度な検査が必要になった場合には、連携する医療機関へご紹介させていただきます。

狭心症の治療

薬物療法

狭窄や閉塞を防ぐために、血管の緊張を緩め、心臓の負担を軽減し、血液を固まりにくくする薬物療法を行います。硝酸薬やカルシウム拮抗薬、β遮断薬、アスピリンなどの抗血小板薬などが使われます。また、発作時に冠動脈を拡張させて症状を短時間に解消するニトログリセリン舌下錠を処方することもあります。

カテーテル・インターベンション(PCI)

カテーテルを手首、足の血管から冠動脈口まで挿入し、冠動脈の狭窄している部分までバルーン(風船)を運び、狭窄している部分を内側から広げる治療法です。狭窄をバルーンで拡張したら筒状の金属製で筒状のステントを留置して狭窄を改善します。バルーンだけに比べ、ステントを留置すると再狭窄が少ないことが明らかであり、現在では薬剤溶出性ステントの留置をする治療が標準化されています。最近では、薬剤がバルーンに塗ってあるバルーン(Drug Coated Balloon)なども病変によっては、治療の新しい選択肢として注目されております。局所麻酔のみで可能であり、所要時間も1~2時間と負担の少ない治療法です。

バイパス手術(CABG)

冠動脈は3本あり、3本ともに狭窄病変がある場合三枝病変と言い重篤な状態を示します。この場合狭窄している血管の先に、別の血管をバイパスとしてつないで狭窄部を迂回する血流の経路を作る外科手術の選択肢があります。使用される血管は、主に足の大伏在静脈、胸骨の裏にある内胸動脈ですが、胃壁に血液を送る右胃大網動脈、腕にある橈骨動脈が使われることもあります。
現在では、人工心肺を使わないで行う心拍動下冠動脈バイパス手術が可能になっており、さらに胸骨を切らず肋骨の間から行う低侵襲な手術も行われるようになっています。カテーテル治療では限界がありなお、バイパス手術は全身麻酔と2週間程度の入院が必要となっています。必要に応じて連携する医療機関へご紹介させていただきます。

労作性狭心症の予防

狭心症予防においては、動脈硬化の予防が不可欠であり、ひいては生活習慣病のコントロールが重要になります。処方薬を指示通りに服用し、生活習慣の改善をしっかり行っていきましょう。
日常生活の改善は、食事や運動、禁煙や節酒などであり、狭心症リスク低下に加えて、脳血管障害リスクの低下にも役立ちます。

バランスのとれた食事

塩分、炭水化物を含む糖分、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の摂取を控えてください。食物繊維を積極的にとり、ビタミンやミネラルをバランスよく含んだ食事を心がけましょう。アルコールの過剰摂取や連日の飲酒は控えてください。

適度な運動

早足の散歩程度の有酸素運動を1回30分、週に3回以上行ってください。ウォーキングや水泳、サイクリングなども適しています。ただし、状態により、運動に制限が生じる場合もあります。胸痛などの症状がある場合には、医師に相談してから適切な運動を行うようにしてください。

禁煙

喫煙すると血管が収縮し、血管壁が傷付きやすくなります。さらに血液が固まりやすくなるとされているため、狭心症の悪化や心筋梗塞につながる可能性が高くなってしまいます。狭心症の予防や進行防止のためには、禁煙してください。また、受動喫煙にも注意しましょう。

十分な休息と睡眠

正常な睡眠においては、心臓の動きが最低限に抑制されます。日中の活動で溜まった心臓の負担を緩和させるためには、良質の睡眠をしっかりとることが重要です。日中もこまめに休息し、無理をしないようにしてください。
夜間にも心臓に負担がかかってしまう睡眠時無呼吸症候群などが隠れていると心臓が休まりません。お気軽に問い合わせください。

規則正しい生活

起床、食事、就寝を毎日できるだけ同じ時間に行うようにすると生活リズムが整い、体調改善に役立ちます。

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